第4章 復帰という選択と静かな痛み

1. 揺れの余韻と、判断の時期の訪れ

休職に入ってからの数週間、
私は少しずつ家の整理を進めていた。

散らかっていた部屋が整っていくと、
不思議と心の中にも静かな余白が生まれていった。
朝の光が差し込むリビングが、
以前よりも柔らかく感じられた。

子どもと過ごす時間も増えた。
学校から帰ってくる足音を聞ける日が続き、
一緒に宿題を見たり、
ただ隣でテレビを眺めたりする時間があった。

そのひとつひとつが、
胸の奥にじんわりと広がるような、
確かな幸せだった。

ブログも続けていた。
地域のことを調べたり、
知らなかった店や場所を知ることは、
純粋に楽しかった。

けれど、
手ごたえは正直まったくなかった。
記事を書いても反応は少なく、
収益の気配はどれだけ目を凝らしても見えなかった。

それでも、
家は整い、
子どもとの時間は増え、
心は少しずつ落ち着いていった。

そんな日々の中で、
休職期間の終わりが近づいてきた。

次の診察で、
医師から「どうしますか」と問われることは分かっていた。

その問いに、
自分がどう答えるのか。

考えるだけで、
胸の奥が静かに重くなった。

2. 医師の診察と、問い

診察室は、いつもと同じ静けさだった。
医師は淡々と、
睡眠のこと、食事のこと、
日中の過ごし方について尋ねていった。

そして、少し間を置いてから
ゆっくりと問いかけた。

「あなた自身は、どうしたいと思っていますか」

その言葉が胸に落ちた瞬間、
心の奥に沈んでいた感情が、
ゆっくりと浮かび上がってきた。

収益は出ていない。
挑戦はまだ形になっていない。
未来は見えない。

一方で、
会社の仲間は「戻ってきてほしい」と言ってくれていた。
その言葉に救われる自分もいた。

そして、
休職は3ヵ月。
業務も覚えている。
戻れば、きっと問題なくやれる。

正直に言えば、
戻るほうが簡単だった。

挑戦を続けるより、
会社に戻るほうがずっと楽だった。

だからこそ、
胸の奥で小さな声がつぶやいた。

「また逃げたんじゃないか」

その痛みを抱えたまま、
私は医師に答えた。

「……復帰します」

その声は、
決意というより、
静かな現実を受け入れた声だった。

3. 復帰初日の朝と、戻った職場の空気

復帰初日の朝、
久しぶりにスーツに袖を通した。

鏡に映る自分は、
どこか見慣れない表情をしていた。

外に出ると、
通勤路の景色は以前と同じだった。
同じ道、同じ電車、同じ人の流れ。

けれど、
そのすべてが少しだけ違って見えた。

職場に入ると、
仲間たちは温かく迎えてくれた。

「戻ってきてくれてよかったよ」

その言葉に救われる瞬間もあった。

けれど、
心の奥では、
どこか距離を感じていた。

4. 業務に戻って感じた“違和感の正体”

仕事は、思っていたよりもできた。
体は覚えている。
手順も、流れも、感覚も。

けれど、
心だけが以前のようには戻らなかった。

同じ仕事をしているのに、
どこか遠くから眺めているような感覚があった。

「ここに戻るために休んだのだろうか」

そんな問いが、
ふと胸に浮かんだ。

それでも、
生活のために働かなければならない。
家族もいる。

だから、
その問いを胸の奥に押し込んで、
私は日々の業務を続けた。

5. 再び積もっていく疲れと、限界の気配

復帰してしばらくは、
「大丈夫だ」と自分に言い聞かせながら働いていた。

けれど、
心の奥ではずっとざわつきが続いていた。

休職中、
私は“収益を得よう”と必死に動いていた。
外に出て記事の素材を集め、
ブログを書き、
SNSも続けた。

でも、
本当に出し切ったのかと言われると、
胸の奥が痛んだ。

もっとできたんじゃないか。
もっと工夫できたんじゃないか。
あのとき諦めたのは、
ただ怖かっただけじゃないのか。

そんな後悔が、
復帰後の自分を静かに締めつけていった。

そして、
会社に向かう朝になると、
体が重くなった。

玄関に立つと、
足が前に出ない日があった。

「行きたくない」という気持ちが、
体の奥からじわりと湧き上がってくる。

頭では分かっている。
生活のために働かなければならない。
家族もいる。

でも、
体が動かない。

心と体が、
別々の方向を向いているようだった。

家に帰ると、
小さなことで心が揺れた。
余裕がなくなり、
家族に優しくできない自分がいた。

「また休むことになるかもしれない」

その予感は、
最初は小さな影のようだった。

けれど、
日が経つにつれて、
その影は静かに、確実に大きくなっていった。

そして、
ある朝、
私は気づいた。

「もう限界なんだ」 その瞬間、
胸の奥で何かが静かに崩れた

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